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「花の子ども」を読んで

花の子ども BOOK
この記事は約3分で読めます。

最近こころに染みる本に出会ったのでご紹介します。

アイスランドの女性作家オイズル・アーヴァ・オウラヴスドッティルによる小説「花の子ども」です。最初アイスランドで発売され2007年に「アイスランド女性文学賞」を受賞。その後フランス語に翻訳されフランスでもベストセラーとなります。日本では2021年4月14日、早川書房より神崎朗子訳で出版されました。

このごろ新しく出た小説は村上春樹以外あまり読まないのですが、世界の名作がいちはやく登場するフランス語訳を漁っているという海外文学好きの方から「日本語版がやっと出たから、ぜひ」と紹介されAmazonで購入、さっそく読んでみました。

なんでしょう。最初の印象は「美しい」と言うのでしょうか。物語を構成するひとやもの、風景が瑞々しい存在感を放っています。それ自体の選択という手柄以外にも、それをひらたくかつ的確に表現した言葉の選択もまた一つの成果ではないかと思います。紙に記された文字が絵画のように連なり美しく佇んでいました。

さて、そんな良書から僕にとって印象的だった仕掛けをご紹介したいと思います。ここからは具体的な内容に触れるので購入する前に知りたくないという方は読まずにページを閉じてください。実際に読まれてからこちらにもう一度いらっしゃってもよいかもしれません。

 

      

ここでご紹介する仕掛けは「鳩」です。

この本ではほかに「八弁のバラ」や「ブルーの長靴」があります。いや、僕が気づいていないだけでほかにも仕掛けがあるのかもしれません。でもとにかく「鳩」に思わず「うまい!」となりました。

最初に登場するのは主人公が遠くにいる父と公衆電話で話した後、すぐ目の前の道路で見つけた片翼の取れた鳩でした。手に取ると間もなく息を引き取ります。これは何か新たな不幸を象徴するもののように思えました。

しかしその後、主人公が幼い娘とその母を迎えるために用意した村の貸し部屋を初めて訪れたとき、高い円天井にフレスコ画があることに気づきます。そこには翼の生えた天使たちが舞い、その中央に片翼の鳩が描かれていました。これは救済の印ではないでしょうか。

さらに最終章で朝まだ母の香りが残るベッドで幼い娘が天井の片翼の鳩を見つけ「チュンチュン」と指さします。これは鳩にとっても娘にとってもそして主人公にとっても祝福の瞬間に違いありません。

世を去った鳩が救われ、神のしもべとして天啓の使いとなる。命の昇華は僕の心にも光明を与えます。この世界には悪いことは確かにあるけどそこにも何か幸福のかけらがあるはず、という作者の声が聞こえたような気がしました。

ところで物語にはひとの死に関する衝撃なシーンが二つ登場します。やさしい風景のなかに作者はなぜそれを挟んだのか。そこにはきっと大切な理由があるにちがいありません。すべてを読み終え、1週間ほど考え、少し答えのようなものが浮かびました。

もしかしたらその死もまた片翼の鳩ではなかったか。

この続きはぜひあなたの手でお確かめください。

僕はあと何年生きられるか。たぶん残りの年数のほうが少ないでしょう。でも日々の暮らしに福音をもたらしてくれる物語に、ここで出会えてよかったと思っています。

   

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